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涙の決意表明 PAGE6

last update 最終更新日: 2025-02-21 09:28:09

   * * * *

 ――父の社葬は一般的な献花式で行われた。篠沢家が無宗教のためだ。

 大ホールの壇上に父の遺影と棺(ひつぎ)を中心とした大きな祭壇と献花台が設(しつら)えられ、参列者がそこに白い花を一輪ずつ手向(たむ)けていった。お別れの言葉を述べるも述べないも個人の自由。

 喪主である母に続いて父に花を手向けたわたしは、何も言わずに遺影を見つめていた。もう決意表明は済んでいたし、「さよなら」は言いたくなかったから。「何て冷たい娘だろうか」と、他の親族には思われたかもしれない。

 式典の間ずっと、里歩が母と反対側のわたしの隣に、貢もすぐ後ろの席に座っていてくれたので、わたしも何とか落ち着いていられた。

 全員の献花が終わり、いよいよ出棺という時になって、里歩が「あたしはここで帰るよ」と言った。

「絢乃、ごめん! あたし、今日はあくまで両親の代理だしさ。桐島さんがいてくれるなら大丈夫だよね?」

「うん……。里歩、ホントにありがとね。学校はしばらく忌引きになると思うから、三学期が始まったら先生によろしく言っておいて」

「分かった。――桐島さん、あたしはこれで失礼します。絢乃のことお願いしますね」

「はい、任せて下さい。お気をつけて」

 コートを着込んでホールを後にした里歩を見送った後、貢が「それでは、そろそろ僕たちも参りましょうか」と着ていた黒いコートのポケットからクルマのキーレスリモコンを取り出した。社用車ではなく、彼のレクサスのキーだ。

「斎場まで、僕のクルマで送迎致します」

「うん。桐島さん、よろしくお願いします」

「桐島くん、ありがとう。安全運転でよろしくね」

「はい。――では、お二人は後部座席へどうぞ」

 彼はロックを外すと、うやうやしく後部座席のドアを開けてくれた。
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     ――午前の、他には誰もいない斎場で父に最期のお別れをした後、黒塗りの社用車やハイヤーなどでズラズラとついてきていた親族一同とわたし・母・貢の三人を除く役員や幹部の人たちは帰っていった。……村上豪(ごう)社長のご一家と一緒のクルマに同乗してきていた小川さんも。「――奥さま、絢乃さん。私は本日付で会長秘書の任を離れ、村上社長に付くことになりました。これまで本当にお世話になりました。秘書の業務につきましては、桐島くんに引き継いでおりますので彼のこと、よろしくお願いします」「ええ、聞いてるわ。あの人が直々に指名したんでしょう? あなたも夫によく尽くしてくれてありがとう」「……はい、ありがとうございます。会社を辞めるわけではないので、絢乃さんが会長に就任されたらまたお会いすることもあると思います。――絢乃さん、私もあなたが会長になって下さることを願う者の一人です。頑張って下さいね」「はい。小川さん、父のために色々とありがとう。わたしも貴女(あなた) が父の秘書でいてくれてよかったと思ってます。これからもよろしく」「はい……! では、私もここで失礼致します」 小川さんは社長ご一家とは別に帰るらしく、スマホのアプリでタクシーを一台手配していた。その時に涙を浮かべていたのは、やっぱり父のことが好きったからだろうと思う。 父の棺が火葬炉に入れられると、わたしたちは待合ロビーではなく奥の座敷へと移動した。ここからが、振舞いの席という名の親族戦争第二ラウンドの始まりだった。 お座敷にはこの日のために発注された美味しそうな仕出し料理が並んでいたけれど、好き放題に父やわたしの悪口を言う親族たちにイライラして、味なんてほとんど分からなかった。「――加奈子さん、あんたの婿さんもとんでもないことをしてくれたもんだ。死んだ人のことを悪く言いたかぁないが、グループの伝統を思いっきり引っかきまわしてくれた挙句(あげく)、こんな小娘を後継者に指名するとはな。まったく、よそ者のくせに何を考えてたんだか」「そうだそうだ! 元々このグループは、篠沢一族が回していたっていうのに。それをあの婿さんが、一人残らず末端(まったん)企業の閑職(かんしょく)なんかに追いやっちまいやがって。会長の権力を笠に着て偉そうに!」 わたしは機械的に箸を動かしていたけれど、だんだん聞くに堪(た)えなくなっていた

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  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   放課後トップレディ、誕生! PAGE1

     ――その二日後、臨時株主総会で新会長を決める決選投票が行われ、わたしは大叔父に大差をつけて無事会長就任が決まった。「――桐島さん! わたし、新会長に決まったよ」『本当ですか? おめでとうございます! では、僕の会長秘書拝命も無事に決まったということですね』 帰りのクルマの中で貢に電話をかけると、彼はわたしの会長就任を心から喜んでくれた。「うん。明後日にも人事部から正式な辞令が下りると思う。というわけで改めて、これからよろしくお願いします」 わたしはそこから自分が行ったスピーチの内容や、社長であり本部の役員でもある村上さんの応援演説がいかに素晴らしかったかを彼に話した。そして、株主総会前の二日間で練りに練った、本社幹部の人事についても。 社長は村上さん留任で、常務は秘書室長の広田(ひろた)妙子(たえこ)さん、専務は人事部長の山崎(やまざき)修(おさむ)さんがそれぞれ兼任してもらうことにした。三人とも父のよき理解者で、協力者でもあった人たちで、わたしにとっても強い味方になってくれることは間違いないと思ったのだ。『そうですか、社長が味方について下さったのは大きかったですね。村上社長は確か、お父さまの同期組でしたよね。営業部でいいライバルだったとか』「そうなの。彼を社長に任命したのもパパだったんだって。若い頃はどっちがママのハートを射止められるか争ってたらしいよ」『へぇ……、そんなことが』 電話口にそんな話をしていたら、隣に座っていた母に「その話はもう時効だから、あんまり続けないで」と苦笑いされた。『それはともかく、明後日は朝十時から就任会見が開かれるんですね。スピーチの原稿は用意しておいた方がよろしいですか?』 彼はさっそく秘書の業務として、そんな提案をしてくれた。わたし自身会見なんて初めてのことだったので、それはとてもありがたい提案だと思った。「そうだなぁ、わたしとしてはあった方が気持ち的に助かるけど。大まかな内容で作っておいてくれたら、あとは自分で考えて話すから」『かしこまりました。では、簡単な内容の原稿だけ、僕の方で作成しておきます』「ありがと。じゃあよろしく」 ――何はともあれ、母が会長代行、貢が秘書、そして強力な首脳陣という万全な体制で、この二日後にわたしのトップレディ生活は幕を開けることとなった。

    最終更新日 : 2025-02-21
  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   放課後トップレディ、誕生! PAGE2

       * * * * ――そしてやって来た、会長・篠沢絢乃のお披露目の日。 その朝、わたしはある決意を胸に秘め、自室の洗面台の前に立った。 丁寧に泡立てた洗顔フォームで顔を洗い、自慢のロングヘアーをブラッシングして、ウォークインクローゼットに足を踏み入れた。「――よし!」 勇ましい気持ちで手にしたのは学校の制服である白いブラウスとブルーグレーのプリーツスカート、クリーム色のブレザーに赤いリボンの一式と、黒のハイソックス。制服姿で就任会見に臨むことで、〝女子高生と大財閥の会長〟の二刀流に挑むわたしの並々ならぬ決意を示すことにしていたのだ。 神聖な気持ちで身支度を整え、姿見に全身を映すと、同じ制服姿だけれど普段と違うわたしが見えた気がした。「――おはよう、絢乃。もう支度できてる?」 廊下から母の声がした。どうやら史子さんではなく、母自らわざわざ呼びに来たらしい。「は~い、もうバッチリだよ! 今行くね!」 わたしはウォークインクローゼットを出ると、大きな声で呼びかけに答えた。 通学用の黒いピーコートとスクールバッグを手に廊下へ出ると、グレーのパンツスーツ姿の母が軽く眉をひそめた。「あなた、その格好で会見をやるってことは……。何を言われても覚悟はできてるってことでいいのね?」 その言い方は、非難しているというよりむしろ母親としてわたしのことを心配しているようだった。「うん。わたしなら大丈夫だよ。後継者として指名された時から決めてたことだから」 わたしの覚悟の大きさを感じ取ったらしい母は、「分かった」と納得してくれた。「じゃあ、朝ゴハンにしましょう。九時ごろに桐島くんが迎えに来るから」「そうだね。彼も今日、本格的に秘書デビューだもんね。きっと張り切って迎えに来るよ」 彼の話になるたびに、わたしの表情はついつい緩んでしまう。やっぱりこれって、恋の魔力のせい……?「――それにしても、その潔(いさぎよ)すぎる性格といい、一度決めたら絶対に曲げない意志の強さといい。絢乃はホント、パパにそっくりだわ」「そうかなぁ? じゃあ、ママにそっくりなところってどこだと思う?」 わたしが首を傾げると、母は大まじめな顔で「顔かしらね」と答えた。    * * * * ――九時少し前。わたしと母が朝食を済ませ、優雅にコーヒー(わたしは父に似てコーヒー好き

    最終更新日 : 2025-02-21

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  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   エピローグ PAGE3

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     彼はブルーのアスコットタイを結んでいる。これは「サムシング・ブルー」になぞらえたらしいのだけれど……。「貢……、それって新婦側の慣習じゃなかったっけ?」 わたしは婿を迎え入れる側だけれど、とりあえずこの慣習を取り入れてイヤリングと髪飾りをブルーにした。でも、新郎側がこれを取り入れるなんて聞いたことがない。「まぁ、そうなんですけどね。僕も気持ちのうえでは嫁(とつ)ぐようなものなので」「……そっかそっか。まぁいいんじゃない? 今は多様性の時代だしね」 何も古くからのしきたりに囚(とら)われることはないのだ。これがわたしたちの結婚の形、と言ってしまえばそれまでなんだから。「ところで貢、知ってた? ママがこれまで断ってきた、わたしの縁談の数」「いいえ、僕は聞いたことありませんけど。……どれくらいあったんですか?」「聞いて驚くなかれ。なんと二百九十九人だって!」「えっ、そんなにいたんですか!? 逆玉狙いの男性が」 彼はわたしの答えを聞いて、愕然となった。彼の解釈は間違っていない。「ママね、わたしが小さい頃からずっと言ってたの。『絢乃には、本心から好きになった人と幸せを掴んでほしい』って。よかったよー、貢がその中に入らなくて」「そうですね。これが絢乃さんにとって、いちばんの親孝行ですよね」「うん。わたし、貢となら絶対に幸せになれると思う。やっぱり、貴方とわたしとの出会いは運命だったんだよ。貴方に出会えて、ホントによかった」「僕も、絢乃さんに出会えてよかったです。もう二度と恋愛なんてゴメンだと思ってましたけど、そんな僕をあなたが変えて下さったんです。ありがとうございます」 こうして向かい合って、お互いに感謝の気持ちを伝え合えるってステキなことだとわたしは思う。この先もずっと、彼とはこういうステキな夫婦関係を築いていきたい。「絢乃さん、こんな僕ですが、末永くよろしくお願いします」「……何かそれ、もう完全に花嫁さんのセリフだよね」 思いっきり立場が逆転しているなぁと思うと、わたしは笑えてきた。「でも、わたしたちって最初っから一般的なオフィスラブと立場が逆転してるんだよねぇ」「……まぁ、確かにそうですよね」 貢もつられて笑った。今日みたいないいお天気の日には、笑顔での門出が似合う。梅雨の時期なのに今日は朝からよく晴れていて、絶好の結婚式日

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     ――こうして、わたしと貢の関係は恋人同士から婚約関係となった。ちなみに、あの騒動のおかげでわたしたちの関係は世間的に公になったのだけれど、これは喜ぶべきだろうか? 真弥さんはあの日撮影した映像を、自分のアカウントでもXにアップしていて、その投稿は見る間に拡散したらしい。〈彼氏登場! いきなりハイキックとかカッコよすぎww〉〈彼氏、ヒーローすぎてヤバい〉 などなど、称賛のコメントと共に思いっきりバズっていた。  去年のクリスマスイブは彼と二人きりで過ごし、婚約指輪はそこでクリスマスプレゼントとして彼からもらった。小粒のダイヤモンドがはめ込まれたシンプルなプラチナリングで、多分価格もなかなかのものだったはず。彼の男気を感じて嬉しかった。 誕生日にもらったネックレスとともに、この指輪もわたしの一生の宝物になるだろう。 その夜は彼のアパートに泊まり、彼の小さなベッドの上で一緒に朝を迎えた。わたしの後から起きてきた彼と目を合せるのが照れ臭かったことが忘れられない。でも、それが結婚生活のリハーサルみたいに思えて、心躍ったのも確かだ。 三月の卒業式には、母と一緒に貢も出席してくれたので驚いた。母の話によれば、その日は一日会社そのものをお休みにしたんだとか。会長の新たな出発の日だから、社員一丸となってお祝いするように、と。「ママ……、何もそこまでしなくても」と呆れたのを憶えている。 四月最初の日曜日、両家顔合わせの意味も込めて我が家で食事会をした。料理は専属コックさんと母、わたしと史子さんで腕によりをかけて作り、デザートのイチゴのシフォンケーキもわたしが作った。桐島さんご一家のみなさんも「美味しい」と喜んで、テーブルの上にところ狭しと並べられた料理を平らげて下さった。 そこで、わたしと貢は驚くべき事実を知った。なんと、悠さんがお付き合いしていた女性と授かり婚をしたというのだ! 顔合わせの席にはその奥さまもお見えになっていて、お名前は栞(しおり)さんというらしい。年齢は貢の二歳上で、悠さんが店長を務められているお店の常連客だったそう。そこから恋が始まり、お二人は結ばれたというわけだった。……ただ、順番が違うんじゃないだろうかと思うのは考え方が古いのかな……。 そこから彼が我が家で同居することになり、二ヶ月が経ち――。 本日、六月吉日。愛する人と二人で選

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    「――絢乃さん、僕、覚悟を決めました。あなたのお婿さんになりたいです。僕と結婚して下さい。お父さまの一周忌が済んで、絢乃さんが無事に高校を卒業して、そうしたら。……で、どうでしょうか」「はい。喜んでお受けします!」 彼からの渾身のプロポーズに、わたしは喜び全開で頷いた。エンゲージリングはまだなかったけれど、気持ちのうえではもう、二人の結婚の意思は確固たるものになっていた。 思えば初めてわたしの気持ちを彼に伝えた時、子供っぽい告白になってしまった。でも今なら、彼にとっておきの五文字で想いを伝えられるだろうか。あの時から少し大人になったわたしなら……。「貢、……愛してる」「僕も愛してます、絢乃さん」 わたしたちは熱いハグの後、長いキスを交わした。「――ところで、絢乃さんは高校卒業後の進路、どうされるんですか? 僕、まだ教えて頂いてないんですけど」 帰り道、彼が器用にハンドルを切りながらわたしに訊ねた。……おいおい、今ごろかい。「わたしね、大学には進学せずに経営に専念しようと思ってるの。やっぱり好きなんだよね、会長の仕事とか会社が」「……なるほど」「ママは最初、大学に進んでもいいんじゃないか、って言ってくれたんだけど。最後には折れてくれたの。わたし、これまでよりもっともーっと会社に関わっていきたいから」「加奈子さん、絢乃さんに甘々ですもんね」「うん、まぁね。ちなみに、里歩は大学の教職課程取って、高校の体育教師目指すんだって。唯ちゃんはプロのアニメーターを志して、専門学校に進むらしいよ」 卒業後の進路はバラバラでも、わたしと里歩、唯ちゃんとの友情はこれから先も変わらない。きっと。

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    「――改めて、貴方には心配をおかけしました」 わたしはいつもの指定席である助手席ではなく、後部座席で彼に深々と頭を下げた。「ホントですよ。あれほど無茶なことはするなと言ったのに。ヘタをすれば、絢乃さん、アイツにケガさせられてたかもしれないんですからね?」 彼はまだご立腹のようだった。でも、それはわたしのことが本当に心配だったからにほかならない。「だーい丈夫だって。そのためにあの頼もしいお二人にも協力してもらったわけだし。いざとなったらボディーガードをしてもらうつもりで――。まあ、結局は貴方に助けられたわけだけど」「イヤです」「…………は?」 彼に唐突に話を遮られ、わたしはポカンとなった。「イヤ」って何が?「あなたが他の人に守られるなんて、僕はイヤなんです。あなたを守るのは僕じゃないとダメなんです。……すみません、ダダっ子みたいなことを言って」「ううん、別にいいよ。貴方の気持ち、すごく嬉しいから」 むしろ、ダダっ子みたいな貴方が可愛くて愛おしくて仕方がないんだよ、とわたしは目を細めた。「でも、今日ほどわたしは貴方に守られてるんだなって思ったことはなかったかも。ホントにありがと」 わたしはいつも、自分が彼を守っているんだと思っていた。でも、時々こうやって自分を顧(かえり)みずに無茶なことをしでかすわたしを助けてくれているのは貢だった。それは秘書としても、彼氏としても。「わたし、いつもこうやって貴方のことを助けてるつもりでも、結局のところは貴方に助けられてるんだね」 父の病気が分かってショックを受けた時、父が亡くなった時、親族から心ない罵声を浴びせられた時。それから会長に就任した時もそうだった。彼はいつもさりげなく、わたしの心の支えとなってくれていたのだ。彼の優しくて温かい言葉に、わたしはどれだけ救われてきたか分からない。「今ごろ気づかれたんですか? 僕の大切さが」「……うん、ごめん。でもありがと」「それにしても、僕を守るなら他に方法くらいあったでしょう? あえて僕と離れて、中傷の目を遠ざけるとか」「それは、わたしがイヤだったの。たとえ貴方を守るためでも、貴方と離れるなんてダメだと思った。だったら、一緒にいながら貴方を守る方法を取った方がいい、って。……まぁ、その分お金はかかったし、ちょっと危ない橋も渡っちゃったけど」 傍から見れば

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE13

     ――作戦は無事成功したものの、わたしは何だかワケが分からなかった。わたしもまたドッキリにかけられたような気持ち、というのか……。「……どうして貢がここに? 打ち合わせでは、あの場で登場するのは内田さんだったはずじゃ」「ああ、内田さんから連絡を頂いたんです。今日、絢乃さんが危ない目に遭うかもしれないから、新宿駅前に来てほしい、って」「相手が激昂してる時に、見ず知らずの男が現れたら事態が余計に悪化するかもしれないと思ってな。ここは格闘技を習得した彼氏に花を持たせてやった方がいいかな、って」「内田さん、そういうことは事前に教えておいてくれないと。わたしをドッキリにかけてどうするんですか!」 そういう問題じゃない気もしたけれど、わたしはとにかく一言抗議しないと気が済まなかった。「悪い悪い。でも、桐島さんが間に合ったんだからよかったじゃん」「そうですよ! 僕が間に合ったからよかったですけど、下手したら絢乃さん、本当に危ないところだったんですからね!?」 彼が怒っているのは、わたしのことを本気で心配してくれていたからだ。だからわたしは叱られているのに嬉しかったし、自分の無謀な行動を猛省した。「……ごめんなさい」「でも、無事でよかった……。本当によかった」 彼は深いため息をつくと、ここが公衆の面前だということもお構いなしにわたしをギュッと抱きしめた。「ちょっ……、貢……?」 彼はわたしを抱きしめたまま震えていた。泣いてはいないようだったけれど、それだけでわたしへの心配がどれくらいのものだったかが伝わってきた。 わたしは彼の背中に手を回し、そっと背中をさすった。父の葬儀の日、泣けなかったわたしに彼がそうしてくれたように。「ごめんね、貢。心配かけちゃって、ホントにごめん。……でも、心配してくれてありがと。もっと他に方法はあったはずなのにね。わたし、これくらいの方法しか思いつかなくて」 路上で抱き合っていると、周りが何だかザワザワと騒がしくなってきた。「……とりあえず、クルマに乗って下さい。話はそれからです」「そう……だね」 これ以上のイチャイチャは人目が気になるので、わたしたちは彼のレクサスへと移動することにした。「じゃあ、あたしたちもこれで撤収しまーす♪ あとはお二人でどうぞ♪」「絢乃さん、オレたちこれで五十万円分の働きはしたよな?」

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE12

     何が起きたのか分からずパニックになっていたわたしを庇うように立ちはだかり、小坂さんにハイキックを一発お見舞いした。「ハイキック、初めて当たった……」 「…………!? な……っ」 一瞬で吹っ飛ばされた小坂さんは、この状況が吞み込めないらしかった。 わたしも呆然となっている場合じゃなかったと気を取り直し、強気な顔に戻った。「真弥さん、今の撮れた?」「はいは~い♪ もうバッチリ」 わたしが目配せすると、建物の陰からスマホを構えた真弥さんと、その後ろに控えていた内田さんが姿を現した。「アンタの裏アカ、あたしが乗っ取っちゃいました☆ 今ねぇ、この様子の一部始終が全国のアンタのファンに垂れ流されてんの。これでアンタ、俳優としても終わったねぇ。はい、ご愁傷さま」「小坂さん、貴方はこれまでにどれだけの女性を弄んで傷つけてきたんですか。女性だけじゃない。わたしの大切な人まで晒しものにした! 貴方、人の気持ちを何だと思ってるんですか! わたし、貴方のことを絶対に許しませんから!」「あんた、どうせ逆玉狙って絢乃さんとお近づきになりたかっただけでしょ? もうバレバレ。甘いんだよ、その考えが」 せせら笑うようにそう言って、真弥さんが腰を抜かしている小坂さんを見下ろした。「わたしは正式に、貴方を名誉毀(き)損(そん)で訴えます。顧問弁護士にはもう、訴訟を起こす準備を整えてもらってるので。ちなみに貴方、事務所をクビになってて後ろ盾はなくなったんですよね? というわけで、訴える相手は貴方個人です。覚悟しておいて」 わたしは次の一言で、彼に完全にトドメを刺した。「この件で、貴方は完全に社会から抹殺されるでしょうね。ご愁傷さま。女をなめるのもいい加減にして!」 この後パトカーが到着し、小坂さんは警察へ連行されていった。前もって内田さんが通報していたのだ。 こうしてイケメン俳優への反撃作戦は幕を下ろしたのだった。

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE11

    「わたしの親友が貴方のファンなんです。五月に豊洲で主演映画の舞台挨拶なさってたでしょう? 彼女、部活があったから行けなくて残念~って言ってました」 これも真赤なウソっぱちだ。里歩はその頃とっくに彼のファンを辞めていたので、行きたがるわけがないのだ。「へぇ、そうなんだ? 嬉しいなぁ」「豊洲っていえば、ちょうどあの日、わたしもあのショッピングモールにいたんですよ。彼氏と二人で。偶然ですねー」 わたしは彼が気をよくした手ごたえを得ながら、ちょっと強気にカマをかけてみた。「へ、へぇー……。すごい偶然だねぇ。っていうか君、彼氏いるんだ? もしかして、撮影の時に一緒にいたあの男?」 彼は平然を装っていたけれど、明らかに動揺していた。わたしはこんな言葉使わないけれど、里歩や真弥さんなら「ざまぁ」と言うところだろう。「ええ。八歳年上の二十六歳で、わたしの秘書をしてくれてます。お金持ちの御曹司っていうわけじゃないですけど、すごく優しくて頼りになるステキな人です。実はわたしたち、結婚も考えてて。でも彼は決して逆玉狙いなんかじゃなくて、わたしのことを本気で大事に想ってくれてる人なんですよ。わたしも彼のこと、すごく大切に想ってます」「へぇ…………。じゃあ、なんで君は今日、俺を誘ってくれたの? そんな挑発的なカッコして、コロンの匂いまでさせて。……もしかして、俺を誘惑しようとしてる? 彼氏から俺に乗りかえるつもりとか」 この人、どこまで自分大好きなんだろう? きっと今までも、こうやってどんなことも自分に都合のいいようにしか考えてこなかったんだろう。「まさか」 わたしは鼻で笑い、彼をどん底に突き落とす宣告をした。「貴方が、その大事な彼を貶めるようなことをしたから、反撃しに来たんです。貴方が裏アカまで作って、彼に嫌がらせをしてきたから。わたしが分からないとでも?」「……っ、このアマ……」「ちゃんと調べはついてるんですよ。だからわたし、逆にそのアカウントを利用しようって考えたんです。貴方の本性を、ファンのみなさんにさらけ出すために。こうやって誘い出せば、プレイボーイの貴方のことだから食いついてくれるだろうと思って。でもまさか、こんなにホイホイ誘いに乗ってくるなんて思わなかった!」 ここまで上手く引っかかってくれるなんて思っていなかったので、わたしは笑いが止まらなくな

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE10

     ――わたしと〈U&Hリサーチ〉の二人で決めた作戦は、小坂リョウジさんの裏アカウントにDMを送り、真弥さんがそのアカウントをハッキング。彼をウソの誘い文句でおびき寄せて二人で会っているところを真弥さんに乗っ取った彼の裏アカでライブ配信してもらい、彼が本性を現したところでそのことを彼に暴露するというもの。よくTVのバラエティーでやっているドッキリ企画に近いかもしれない。 万が一のことを考えて、わたしは内田さんと真弥さんと連絡先と名刺を交換した。貢の携帯番号も教え、わたしの身に危険が迫った時には最終手段として彼に知らせてほしい、と内田さんにお願いした。 この作戦については話していないけど、調査については貢にも伝えてあった。調査料金として五十万円を支払ったことには、「そんな大金を払ったんですか!? 絢乃さん、金銭感覚バグってるでしょう絶対!」と呆れられた。わたし自身もそう思うけれど、彼を守るためなら一億円出したっていい。彼の存在は、決してお金には代えられないから。 顧問弁護士である唯ちゃんのお父さまにも、小坂さんを訴える準備をして頂いた。真弥さんにもらった調査内容はその証拠としてお預けした。ただ、正規ではない手段で手に入れた情報なので証拠能力がどうなのかは分からないけれど……。 ――そして、作戦決行の日が来た。 その日は土曜日で、貢には前もって「ちょっと用事があるから」とデートの予定を外してもらった。 内田さんの事務所を訪れてから決行日までの数日間、わたしの様子がおかしかったことは彼も気づいていたかもしれない。もしかしたら彼は、わたしの浮気を疑っていたかもしれないけれど、その心配なら皆無だ。内田さんには真弥さんという可愛い恋人がいるわけだし、わたしには貢しかいないのだ。 SNSでの誹謗中傷は、もうこのネタが飽きられていたのかパッタリ止んだ。その代わり、真弥さんが調べてくれた小坂さんのある情報が、Xで拡散されていった。彼はお付き合いしていた女性と破局するたびに、リベンジポルノを仕掛けていたらしいのだ。――これもまた、三人で練った作戦の一部だった。 普段よりちょっと露出度高めの服装をして、わたしは新宿駅前でターゲットを待ち構えた。少し離れた場所では、自撮りするフリをしてアウトカメラでスマホを構えた真弥さんと内田さんも待機していた。「――CM撮影の時以来かな

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